囲碁のプロ棋士三段であるその男、
戸田数馬は、
同じくプロである五冠・塔矢行洋の邸宅前を通って
コンビニへ朝食を買いに行くのが日課となっていた。

その目的は、男が見初めてしまった女性。

在宅時には早朝に塔矢家の前を掃き掃除している
塔矢行洋の妻と出会う為‥
塔矢明子と出会う為だった。

出会うと言っても、
男は帽子を深く被り顔を隠すようにして通りすぎていただけだし、
明子も男の事は全く記憶になかった。

しかし、男にとって、それは逆に都合のいい事だった。